お引越しが決まって、改めて「賃貸借住宅契約書」を確認すると、原状回復に関する、「特約」の存在に気づきます。
そんな、「特約」は、有効なのでしょうか・・・、「特約」通りに、原状回復しなければならないのでしょうか・・・
特約は、必ずしも有効とはならない
「特約」の内容
原状回復の特約は、以下のような記載がみられます。
「契約終了明け渡し時点において、畳表・襖紙の張り替え、及び専門業者によるホームクリーニングは、使用の程度、入居期間の長短に拘らず行うものとし、費用の全額を借主が負担する」
「敷金は、契約条件として、解約時50%償却する。」
「本契約が終了し、本物件を明け渡す際、室内消毒、クリ一二ング等の費用は乙借主の負担で行う。」
これら、特約の内容通り、借りた側は、原状回復費用を支払わなければ、ならないのでしょうか・・・
民法の原則
民法では、契約に対し、「契約自由の原則」が定められ、契約相手の選択、契約の内容、契約の方式の3つの自由が認められ、契約当事者間で決めることが出来ます。
特約も、「契約自由の原則」により、当事者間で決めれば有効な契約となりますが・・・
消費者契約法の修正
対等な当事者間であれば、特約を取り決めても不都合は生まれないでしょう。
しかし、不動産会社(事業者)と借主(消費者)とでは、どうでしょうか・・・
仕事として、たくさんの賃貸借住宅契約をこなす不動産会社(事業者)と、一生のうちに数回だけ賃貸借住宅契約を経験する借主(消費者)とでは、契約をする場合に、対等な当事者間とは言えません。
このような「消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差」に注目して、消費者契約法という法律では、
- 事業者に不適切な行為があった場合には、消費者は契約を取り消せる
- 契約書にある、消費者の権利を不当に害する条項は無効となる
ことが決められていて、消費者の保護が図られています。
裁判では
原状回復を賃借人の負担とする特約の有効性が、争われた裁判では、その特約が消費者契約法10条により無効とされ、敷金の全額返還が認められた事例(京都地方裁判所平成16年3月16日判決)もあります。
賃貸借契約における原状回復特約の消費者契約法による無効(消費者問題の判例集)_国民生活センター
特約の解釈
「特約」として契約された事項、そのすべてが無効となり、敷金返還に何も影響を及ぼさない訳ではありません。
「特約」の有効性は、「賃貸借住宅契約書」「重要事項説明書」等の内容を精査し、法令、裁判にて示された判断との整合性、実際の契約時の状況などを総合的に判断しなければなりません。
敷金返還では、「特約」の有効性への不動産会社(事業者)からの合理的説明を求めながら、国土交通省の公表する「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を超える部分の原状回復費用について、交渉を進めていくこととなります。
住宅:「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について – 国土交通省
民間賃貸住宅の賃貸借関係をめぐるトラブルの未然防止に関する制度解説の映像について:国土交通省
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